昨日から母と伊豆稲取に来ている。
今回の旅行には、ひとつ目的があった。
昔、母とこの旅館に来たことがある。母が今の私の歳と同じ位だった頃になるがそのとき、名物の金目鯛の煮付けに手をつけずに残してしまったのだ。
なぜ食べなかったのか、よく覚えていない。お腹がいっぱいだったのだと思う。でも、せっかくの名物料理を食べずに残してしまったことが、ずっと心に引っかかっていた。その話題はたびたび母との会話にも出てきた。
いつかもう一度行き、今度こそ食べよう。
そんな思いを解消するために、今回やって来た。
前回行った時は、お互いが自分の荷物を準備し身軽に電車で行っていた。私は母に付いて行くだけだった。今回は不測の事態も考えて、あれもこれもと荷物を積み込んだ。1泊なのに後部座席はまるでキャンプにでも行くように荷物が置かれた。
昔から空いている時間に出て向こうで時間を潰せばいいとなったけど、母の体調を考えるとあまり早くはできなかった。通勤ラッシュをはずして出かけたが渋滞には巻き込まれてしまった。
母がトイレに行きたいと言いPAに入る。混み表示がされていて停められるか不安だったが無事停められ一安心。ここで食事をするには少し早くどうするか迷ったが後にすることにした。
ここで初めての事が起こる。
ETCカードの通信エラーとアナウンスが流れる。カードを入れなおして大丈夫そうだったのでPAをでる。渋滞の列に合流する。その後の料金所でバーが開かず、係員を待つ様にスピーカーから声がする。後ろには渋滞の列…最悪だ。通信エラーと言われカードを渡し係員が確認して戻って来るのを待つ時間が長く感じる。後ろでクラクションを鳴らされた気もする。逆の立ち場なら迷惑な人間と思ってしまう。係員に「カードは大丈夫でした」と明細と一緒に渡され、そそくさと車を発進させる。次の料金所でもまた通信エラーがでたらどうしようと気が気じゃない。一般で入るか悩んだが、この後もまだまだ高速は使うのでETCが使えないとかなり不便になる。また迷惑をかけるかも知れないが試して見たところ今回は大丈夫だった。
今度は昼食の心配。お昼ご飯は夜ご飯を旅館でしっかり食べる事になるので軽くしなくては行けない。母の食事制限は厳しいが旅館ではできるだけ普通に食べてもらいたい。昼食の時間も母の事を考えると大きくはずらしたくなかった。高速を降りたタイミングで見つけたコンビニでおにぎりなどを買って食べる事に。家から持ってきたサラダとコーヒーゼリーを出す。母の分は買った物だと調整が難しいから家から準備してきた。
ナビの設定が良くなかったのか、有料道路ばかりを通り何度も通行料を払うことになってしまった。ここに対して調べが甘かった事を後悔する。500円、900円、300円…しかも現金しか使えない。サイフから小銭がどんどん消えて行く。そこは気にしても仕方ない!と言い聞かせる。おそらくもう通ることは無い道の景色を楽しむ。山からみる景色は良い。もっと天気がもう少し良ければ…なんて贅沢かも知れないが欲がでてしまう。車を停めて外に出ると風が強く寒い。さっきまで車の温度計は22℃だったのが16℃になってる。他の車もほとんどおらず走りやすいのは走りやすい。ただ、天気が悪かったり遅い時間には通りたくない感じの道だった。


なんとかあと30分で旅館に着く。ガソリンの残量を気にしながら、ガソリンスタンドの場所をチェックしながら運転する。海沿いの道を運転するのはかなり久しぶり。海には圧倒される。やはり海が見えると気分が上がって楽しくなって来た。
30年以上前に来た時は駅まで送迎車が迎えに来てくれた。その時はまだ運転免許を持ってなかったかも知れないし運転は人任せだった。うっすらとした記憶をたどり、あそこで送迎車を待ったのかもなんて懐かしく思う。
旅館の雰囲気も変わっていた様に思う。


部屋に露天風呂が付いているのでいつでも入り放題。お湯が常に流れているのはさすが温泉地、なんかもったいない気になってしまう。海に面しているとはいえさすがに明るい時に入るには勇気がいる!見られて減るもんじゃないけど部屋の露天風呂に入るのは暗くなってからにしよう。
いつも夕食は17時に食べている。夕食を何時にするか聞かれて迷わず一番早い17時半にしてもらう。まだ時間があるので大浴場に行くことに。母は行かないと言うので1人で向かう。
この時間は270度の景色が楽しめる露天風呂。街から海までを広く見る事ができた。気さくな女性が話しかけて来た。こんなに丸見えだと思わなかった〜っと。温泉は1人でゆっくり浸かる派の私はなんか気恥ずかしく、ある程度話をしたら早々にあがることにした。ああ言う気さくな感じになれたら人生楽しそう。
館内着に着替えさっぱりし部屋に戻る。やはり風呂も食事の準備もしないのはありがたい。ベランダに出て海をボーッとみたり、ゴロゴロしたり、食事を楽しみに過ごす。
待ちに待った食事の時間。テーブルにクロスが敷かれ前菜が運ばれて来る。昔は同じ部屋食でもテーブルいっぱいに料理が並べられていた気がする。ご飯と漬け物とお刺身でお腹がいっぱいになり金目鯛の煮付けを残してしまった気がする。今どきなのか部屋食でも、コース料理の様に少しづつ運ばれて来るので全体的にに楽しめた。
そして、念願の金目鯛の煮付け。
食べてみると、思っていたよりあっさりしていた。後から調べてみたら、どうやら旬の時期ではないからか、旬ならまた違うのかもしれない。
母と来るのはこれが最後だろう、念願の金目鯛の煮付けを食べられるところは出来るだけ残さない様に時間をかけて丁寧に食べ進める。あまりこういうところに来てそこまで食べる人もは居ないと思う、でもこれが今回の一番の目的だからそこはやっておく。
味はしっかりとした甘辛味で白いご飯によく合う。なんならキンメの煮付けとご飯と漬け物で十分満足する。他にも美味しい料理を満喫した。





そう納得できたので、来て良かったと思う。
思い残していたことのひとつを、これで解消できた。
今朝も豪華な朝ごはんだった。
朝から舟盛りまである。嬉しいけれど、舟盛りがなくても十分なくらい、ほかのおかずが充実していた。
ご飯に合うおかずばかりで、どれも美味しくいただいた。
ただ、母の食事管理をしている私としては、手放しで楽しんでいるわけにもいかない。
昨晩からタンパク質は摂りすぎている。今朝は塩分も気になる。
伊勢海老の頭から出汁を取った味噌汁なんて、絶対に美味しいに決まっている。でも、塩分を考えたら飲まないでほしい。とはいえ、せっかくの旅行で、これを飲むなとも言いづらい。
「今日だけ〜」
そう言いながら、母は塩辛を食べ、昆布の佃煮を食べ、焼きたらこも食べる。
そして、アジの開き。
さすがにこのあたりでストップをかけた。
母は、自制しようとする私に嫌な顔をする。
でも、私だって旅行くらい楽しく終わりたい。
普段から食事のカロリーやタンパク質、カリウム、リン、塩分を気にしながら、あれこれ考えて食事を用意している。
旅行中くらい好きなものを食べさせてあげたい気持ちはある。でも、昨晩からの食事も含めて考えれば、少しは加減してほしいと思ってしまう。
目の前に美味しいものが並んでいれば、食べたくなる気持ちはわかる。
私だって、せっかく来たのだから美味しく食べたい。
それでも、普段の食事を基本に考えれば、何でも好きなだけ食べていいわけではない。
楽しい旅行のはずなのに、結局、食事の管理をするのは私。
母の健康を考えて止めれば嫌な顔をされ、何も言わずにいれば、あとから自分が気になってしまう。
なかなか難しいものだ。
それでも、昔の心残りだった金目鯛の煮付けを食べることができた。
「もうここには来ないかな」と思うけれど、来て良かった。
長い間、心の片隅に残っていたことがひとつ片付いた。
今回の旅は、それだけでも十分だったのかもしれない。

コメント